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  密集市街地

木造密集市街地の街区形態・建物配置を反映した延焼シミュレーション手法の開発


背景

 多くの建物が建て詰まった状態にある密集市街地では、ひとたび火災が発生すると容易に隣棟へ延焼する可能性があると言われています。 特に地震時には、建物が構造的な被害を受けて本来の防火性能を期待できない場合が多い上、火災が消防力をはるかに上回る規模で多発するため、 被害が大規模化する危険性があります。都市火災のような大規模災害は、様々な形で被害をもたらし、人々の生活を破綻させるだけでなく、 それまで都市が営々と培ってきた歴史や文化をも一瞬にして灰塵に帰してしまいます。都市が住民に対して安全な生活環境を提供し、 かつそれぞれの個性を保ちながら持続的に発展していくためにも、都市火災のリスクは許容可能な範囲に制御する必要があります。



目的

 木造密集市街地には街路形状や建築物の配置について様々なバリエーションがあります。また、市街地で要求される性能は安全性だけでなく、 快適性・利便性・経済性・文化性などさまざまであるため、これらの両立も考えていく必要もあります。特に、伝統的な建築物や木造密集地そのものが 地域の魅力に貢献している場合、まちづくりを行ううえで建築物や街路をどう改修していくべきなのか、その判断は難しいものになります。

 そこで本研究では、街区レベルに存在する伝統的な建築物や木造密集地の魅力を生かしながら、その防災性を向上させるための手法を比較検討しようと考えています。そのためには街区形態や建物配置といった各地域の特性が反映される延焼シミュレーションを実施する必要があります。

 本研究では、そのシミュレーション手法の開発の一環として、京都大学防災研究所田中研究室との共同プロジェクトにより、同研究室で 開発されたミクロモデルの市街地延焼シミュレーション(Urban Fire Spread Model、以下UFSM)を過去の大火のデータをもとに検証し、 地震災害をはじめとする大規模都市火災に対応し得るように改良を行います。

これらの問題点を踏まえると、さらなるデータの蓄積及び犯罪種別の詳細な調査研究の蓄積が不可欠です。犯罪と環境の様々な因果関係を 明らかにし、実際の都市計画に応用していくことを目的としています。



方法

阪神・淡路大震災の大火が発生した地域を調査フィールドとして取り上げ、従前の状況についてデータを整備した上で、ミクロモデルの 延焼シミュレーション(UFSM)を実施し、適宜プログラム・モデルの改良を行います。


1) 阪神・淡路大震災時の実態調査および延焼動態の整理

 まず、阪神・淡路大震災の大火が発生した地区を数箇所選定し、延焼シミュレーションに必要な建物形状・配置および道路についての 基礎データを焼失前に遡って整備します。

  1. 焼失前の建物・道路に関する基礎データの再現 

    建物形状、隣棟間隔、構造種別、階数etc.

     

    【利用予定資料】

     
    • 日本火災学会で実施した焼失地域へのアンケート
    • 地震前の住宅地図(神戸大学による調査結果が記入されている)
    • 周辺の焼け残った地区での建物データ(→開口部設定の参考)
    • 航空写真からの判別(地震発生前:国土地理院/地震発生後焼失前:報道機関のVTR) 

  2. 延焼動態の整理

    出火点、出火時刻、延焼範囲の経時変化etc.

     

    【利用予定資料】

     
    • 各研究機関から示されている焼失地区の延焼動態図
    • 出火・延焼の様子をおさめたVTRなどの画像情報 

2) 延焼シミュレーションの実施、モデルの改良

 UFSM(ミクロモデルの市街地延焼シミュレーション)をベースにして、1)の建物・道路データを用いて延焼シミュレーションを実施し、 阪神・淡路大震災における実際の延焼動態と比較します。

 UFSMの特徴は、市街地における火災拡大を、現象の物理的な知見に基づいて定式化していることにあります。都市火災を多くの建物火災の 集合と捉え、ほかの建物火災の影響下における個々の建物火災の燃焼性状を予測することで市街地全体の燃焼性状予測へとつなげています。 さらに物理的モデルでは、都市火災という大きな枠組みの現象を、区画火災や噴出火炎、熱気流、飛び火などといった下位の現象へと分解し、 これらを個別に定式化しています。

 そのなかで、モデルの改良にあたって考慮すべき事項として以下の項目を考えています。

  1. 地震被害を受けた建物による延焼動態への影響

    延焼動態への影響

    ○ 延焼速度増加要因
    ● 延焼速度低下要因

     地震被害を受けると、上表のような延焼速度の増加要因と低下要因という、相反した要素が生じると考えられています。こうした要素を モデルに組み込むことで、地震災害にも対応した延焼シミュレーションモデルを開発することができます。

  2. 「飛び火」の設定

     UFSMでは、延焼性状予測にあたって飛び火の落下地点を乱数使用の確立計算で割り出しています。

     阪神淡路大震災では飛び火に関して着火時刻と落下地点の実測データが存在するため、それに基づいて設定をしていきます

  3. 「延焼経路としての開口部」の設定

     建物間の延焼は、開口部からの噴出火炎や熱気流による輻射熱伝達が主要な要因となって生じます。よって建物の開口部は建物間の延焼を 考えるにあたって重要な要素です。現在UFSMでは、開口部を実際の建物のデータ(高さ何mの位置に幅何m高さ何mの開口部があるのか…) ではなく、隣棟間隔から割り出された関数を用いて表現しています。本研究でもそれぞれの地区の特性から開口部を設定する関数を割り出す必要が あります。(実際の建物のデータを作成することが最良ではありますが、本研究では焼失地域を対象とするため限界があると考えられます)


3) 既存のシミュレーション結果との比較

 今回のシミュレーションモデルを用いることで、どの様な有効性が見出せるのかも検討していきます。

 これまでに提案されてきた延焼性状予測手法は、そのほとんどが過去の大火もしくは火災データに基づいて経験的に火災の拡大速度を 定式化しています。しかし、対象となる都市火災は低頻度災害であることから、経験的モデルの精度を左右する検証用データを十分に確保することが 難しく、モデルの信頼性や一般性を保証することが大きな課題となってきました。

 本研究では先述のとおり、物理的な知見に基づいたモデルを用いて延焼性状を予測することから、より一般性の高い検証が可能になると思われます。

 各研究機関により阪神・淡路大震災時の大火は検証されてきましたが、その結果と比較することで、本研究の既存研究との位置づけ(関連性)を 明確にしていきます。

 【既存の検証例】

  1. 国土交通省モデル →長田区高橋病院周辺

    「市街地火災の延焼シミュレーション(その1~3)」,林吉彦(建築研究所)岩見達也(国土技術政策総合研究所),平成16年度日本火災学会

    「延焼シミュレーションモデル ~実火災との延焼速度比較~」,岩見達也(国土技術政策総合研究所),平成17年度日本建築学会

  2. 東京消防庁による延焼速度式

     →長田・須磨区7、兵庫区1、灘・東灘区3、計11地区

    「兵庫県南部地震に伴う市街地大火の延焼動態調査報告書」東京消防庁(平成7年12月)

  3. その他

    「神戸市御蔵・菅原地区地震火災延焼シミュレーション」,宮永良一(愛知工業大学工学研究科),平成12年度日本火災学会


物理的モデルの利点は、新たな知見の蓄積を待って追加的にモデルの予測機能を拡張することができるということもあります。本研究では、 阪神淡路大震災時の都市大火について検証を行い、おもに地震災害に対応できるよう改良をすすめていますが、今後は地域消防力の評価や樹木の 延焼阻止作用など物理的に解明が進んでいない事象をモデルに追加していくことで、市街地における都市火災リスクの評価をより精密に行うことが 可能になると考えられます。

Copyright(C) Urban Safety Management Lab.,Kobe Univ. all rights reserved.



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