建築防災
火災時におけるエレベータ利用を想定した 避難誘導方法・避難計画
火災時における乗用エレベータは次のような問題が生じる恐れがあるために、一般に使用しないことが原則となっています。
- 煙突降下によりエレベータシャフトが煙の伝播経路となる
- 適切な誘導・制御がないと避難待ちの間に混乱発生の恐れがある
- 消火用水による機械の故障可能性がある
- 非常用電源の容量が非常に大きくなる
しかし、建物の高層化や社会の高齢化による自力避難困難者の増大、人権の拡大や要求水準の上昇による非常時バリアフリーの必要性、
エレベータの普及と階段の形骸化などから、従来の階段による垂直避難方法が限界を露呈し、階段に変わる新たな避難方法の確立が早期に
求められています。
また近年では、バリアフリーに替わる設計目標として、ユニバーサルデザインが推奨されています。ユニバーサルデザインを誰にとっても
優しい設計と捉えるだけではなく、あらゆる環境においても有益な、すなわち日常時の生活環境と非常時の安全性を同時に確保する設計と
考えることが必要です。
これらを満足するものとして、乗用エレベータを利用して避難する方法が課題であり、当研究室ではエレベータ避難を組み込んだ
新たな火災安全設計法を検討しています。現段階としては、エレベータ利用避難に伴い発生する問題点を予期し、各対策の比較を行うための
経験的なデータを蓄積することを目標としています。
エレベータ利用避難の先例となった病院の火災調査を行ない、エレベータ利用避難に関する事象の全体像の把握および重要事象の抽出により、
エレベータ利用避難の需要が最も大きいと考えられる病院についてモデル化(使用言語:Fortran)を行いました。
作成したモデルを用いてエレベータ利用避難計算による同火災の再現を行い、モデルの妥当性を検討しました。
また、既存病院を用いて想定される事象のシミュレーションを行い、エレベータ利用避難にかかる時間と発生する滞留の予測と比較を行った
結果、次の2点の必要性を指摘できました。
パニックの危険性への対策として、安全工学、人間工学、設計学、心理学などあらゆる観点から考察しました。
- フールプルーフ型対策として、ナチュラルマッピングの手法の建築計画への応用
- フェイルセーフの観点から、階段やバルコニーなどの避難経路の併設の必要性
- 群衆災害のリスクを減らすには過集中の回避が必要であり、時間、空間、人間の分離方法の有効性
- 火災に対し個人ではなく全体で望むという新たな視点の必要性
今後は、エレベータ利用避難の前提条件をさらに明確にし、病院から他用途に範囲を広げて有効性を考察していきます
現在、「第6回性能基準と火災安全設計法国際会議」に向けて、設計性能ケーススタディのワーキンググループに参加し、エレベータ避難を
考慮した高齢者施設の避難計画を検討しています。
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