建築防災
災害時要援護者の安全確保
日本における大きな課題として、今後も続く高齢化社会があります。
災害時に高齢者は、災害の発生の認識、危険性の認識、さらには避難行動が困難、避難生活の不便さなどの問題を抱えています。すなわち、
災害時に被害者になりやすいということになります。また、普段の生活で介護を要する方は高齢者になるほど割合が高くなるのが一般的です。
既に全国の人口の4分の1がいわゆる災害時要援護者でなっており、さらにそのうちの半分が高齢者で占められていると言われています。
全国の高齢世帯数は、この20年ほどの間に3倍近くに増加しています。したがって、全国では災害時要援護者の対策が減災の課題の一つとして
注目されてきています。
当研究室では、「不特定多数が集まる建築物のおける車椅子使用者の避難に関する研究」の調査を行い、次のような問題点を抽出しました。
■日常利用意識と行動から指摘できる問題点
⇒既存対策の問題点
◇誘導対策
管理者アンケートからも、実際の防災訓練や誘導マニュアルには車椅子の避難安全対策についてはあまり検討されておらず、実際の災害は
発生するまで予想することは困難です。避難誘導がうまく機能しなければ、エレベータや人を探し回るといった予想困難な避難行動をとることは、
救助を行う側としても把握しづらくなります。
また、介助者は車椅子使用者本人の意思を尊重する立場をとっています。あくまで本人がとりたい行動をサポートする立場であることが
基本となっています。そこで避難の場合においても、その立場に考えてしまう事が避難開始の遅れなどにつながることが懸念され、具体的に
要救助者の人数が予測できないため、従業員の人数が不足するケースも考えられます。
■避難安全計画上の問題点
経済優先の社会においては、防災管理が杜撰になりがちであり、安全区画内、避難経路上の物品放置などの慢性的な問題が車椅子使用者に
とっては生死を分ける重要な問題となっています。ほとんどの防災避難計画が健常者を対象に考えられていることから、車椅子使用者が通過困難と
なっています。
⇒管理状態からの経路障害問題について
施設では、物品放置が慢性的な問題となっており、その場しのぎの対応しかなされていません。行政指導以外の方法でも、管理のあり方を
考え直す必要があります。
⇒防災計画段階における避難経路障害について
一定の有効性の認められる計画でも、計画段階ではわからなかったひとつの障害が避難を困難にし、遅らせる結果となります。
⇒防災設備について
災害時に要援護者となる者が実際に使える設備であるか。また、防災に知識や設備の使い方の理解がなければ存在意義がなくなってしまいます。
■管理者側の誘導対策の問題点
管理者側の多くが避難誘導マニュアルを作成していますが、車椅子使用者をどのように誘導するかについてはあまり考慮されておらず、
それぞれの施設によって異なります。実際に適切に対応できるかどうかは疑問の残るところです。
⇒既存対策の問題点
避難訓練などは、実際に車椅子使用者が参加しておらず、車椅子の扱いに慣れていないことなどから、車椅子に戸惑いを感じる恐れもあります。
そのため、スムーズな対応が出来ていない可能性があります。
一部の健常者中心に考えられてきた建築防災計画が災害時用援護者の中でも、垂直に避難できない人間にとってどのような対策をとるべきか
について、ケーススタディなどで研究を進めています。
目的は車椅子使用者等に対して特別な対策を考え出すことではありません。それぞれの対策が独立して存在せずに相互に連携し、すべての人間に
とって使いやすいという、いわゆるユニバーサルデザインから建築物の安全な空間をつくりだすことにあります。
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