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安全都市づくり (Urban Safety Management) 研究分野
1.「安全都市づくり」の定義
安全都市づくりは、英訳するとUrban Safety Managementであり、3つのキーワードにより構成されている。「安全」と「都市」と「マネジメント(づくり)」である。
最初の「安全」は、従来の狭い防災の考え方を乗り越えて、自然災害だけではなく人為的災害をも、さらには犯罪や環境破壊といった社会的リスクをも制御対象として捉える考え方に基づいている。<セーフティ>から<セキュリティ>への危機管理の展開が,防災という言葉よりも安全や安心という言葉を使わせるのである。
次の「都市」については、都市という<ハードな空間>とのみ捉えてはならない。その空間の中で営まれる、生産や生活といった<ソフトな機能>をも含めて捉える必要がある。ハードとソフトが一体となったもの、空間と機能が一体となったものとして捉えなくてはならない。
と同時に、「都市」を<都市の中で起きる>という場所を示す意味での都市と受け止めてはならない。<都市ゆえに起きる>という要因を示す意味での都市と受けとめる必要がある。都市のもつ様々な特質が都市のもつリスクに密接に関わっているという認識を持たなければならない。
最後の「マネジメント(づくり)」は、単にハードな空間を形作るのではなく、ソフト面をも考えているのであり、そのため英訳ではManagementとしている。これはまさに危機管理の「管理」である。つまり、被害あるいはリスクを軽減するために、計画的あるいは体系的に環境を制御し資源を運用する行為をいう。従来の「対策」にくらべると、「管理」はより総合的で持続的な行為と位置づけられる。
以上から、「安全都市づくり」とは、都市の脆弱性など都市のもつ特質ゆえに、発生しあるいは拡大する広範なリスクから、人々の命だけではなく財産や機能をまもることを目的として、都市の空間や資源を総合的に制御し管理する行為、と定義することができる。
2.安全都市づくりの課題
ところで、「安全(都市)づくり」を従来の防災対策と比較して特徴づけるならば、それは一言で「総合性」にあるということができる。とりわけ、その「対象の総合性」と「手段の総合性」に留意する必要がある。なお、この総合的に安全を追求することを「トータルセキュリティ」と呼ぶ。
(1)リスクをトータルに把握する
阪神・淡路大震災で、約6千人の尊い命が失われた。ところで、命や暮らしに危害を及ぼすのは、地震だけではない。災害統計でみると1年間に、火災で約1千人、転倒や溺死などの事故で約5千人、交通事故で約1万人が死亡している。こうした数字をみるならば、地震災害に対してだけでなく日常災害や交通事故などに対しても、その被害軽減のために最大限の努力を傾ける必要があるといえよう。
災害では、風呂などでの溺水事故が急増している。この溺水による死者が3千人というのは看過せない数字である。災害の進化という言葉があるが、事態とともにハザードやリスクの様相は変化してくる。この新しい変化に対応してマネージメントをはかることも忘れてはならない。顕著にその被害が増大しているものとして、溺水事故のほか、放火やひったくりあるいは医療ミスなどを、指摘することができる。こうした新しい災害は、都市社会の歪の反映として登場してきており、その増加原因の科学的な解明と減災への早急な対応が求められるところである。
そのほか、地球環境問題や高齢社会問題の深刻さがもたらすリスクについても、軽視せず取り組むことが望まれよう。
(2)リスクをトータルに制御する
危機管理の対応として、・予防医学、・緊急治療的対応、・リハビリ的対応、・公衆衛生的対応、の4つがある。予防医学的対応というのは、被害が発生しないようにする対応、緊急治療的対応というのは被害が拡大しないようにする対応、リハビリ的対応というのは被害からの立ち直りをはやめる対応、公衆衛生的対応というのは、被害の減少にかかわる基盤条件をつくりあげる対応、である。この4つの対応を総合的に展開するというのが、安全マネージメントの基本である。
対応を総合的にということでは、起因、誘因、素因、という被災に関わる3つの要因それぞれに対する対応を、バランスよく総合的にはかることも忘れてはならない。バランスよくということで忘れてはならないのは、環境因子あるいは人的因子を重視して、管理に取り組むということである。とりわけ、安全都市づくり研究分野では、被害を受けるのも被害を防ぐのも「人」であるという視点から、人的因子に着目した研究や対応が求められる。
3.安全都市づくり研究分野の研究
都市安全づくりの課題の方向づけを踏まえて、安全都市づくり研究分野では、どちらかといえばソフトに比重を置きながら、研究の展開をはかっている。
(1) 研究の領域
安全都市づくり研究分野では、人為的あるいは社会的リスクを重視するということから、対象を自然災害に限定せず人為災害や社会リスクを防御の対象として積極的に捉えてきた。火災に加えて、放火、ひったくり、日常事故などを対象とした研究を継続的に展開している。
また、安全都市づくり研究分野では、公衆安全的対応を重視するということから、まちづくり、生活支援システム、防災&環境教育、環境管理システム、防災関連法制度など、とりわけそれらの総体としての<防災文化>を対象とした研究を多面的に展開している。
更に、安全都市づくり研究分野では、人的因子を重視するということから、災害時の心理や生理、避難行動や群衆歩行の特性、空間の管理や認知などを対象とした研究を学際的に展開している。ここでは、行動観察や行動実験さらには行動シミュレーションが主な研究手段となっている。
(2) 研究の展開
安全都市づくり研究分野では、その社会的性格あるいは学際的性格から、現場を大切にする、社会と連携する、空間を設計する、の3つを研究活動の原則として位置づけている。
現場を大切にするということでは、災害事例から可能な限り教訓をひきだすことが、求められる。火災時の避難行動調査や震災後の延焼動態調査あるいは遺族聞き語り調査は、この現場主義に基づいて行われている。
社会と連携するということでは、自治体等と連携した研究調査活動、市民等と連携した学習啓発活動に力を注いでいる。震災後スタートした「オープンゼミナール」(毎月第3土曜開催)は市民との連携を探る試みである。
空間を設計するということでは、建築および都市の計画に積極的に関与し、安全な空間を実現するという責任を果たす役割がある。これについては、安全性能設計法の開発に心掛けるとともに、都市および建築の防災性能審査や防災計画策定に関わった研究を展開している。
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