講演概要
災害からの復興の目標には、被災者の生活の回復とともに、教訓を生かした理想の社会の実現-がある。
阪神・淡路大震災を取り巻く状況では、
①被害が非常に大きかったこと、
②日本が経済不況の中にあったこと、
③復興に対する社会システムが十分ではなかったこと、
が特徴的だった。都市で大量の住宅が倒壊した場合の制度や法は、日本ではいまなお、整備されていない。被害が大きかったことについては予防の大切さを強調したい。
阪神・淡路の復興を振り返ると、インフラなどの復旧は迅速に行われ、また、この六年間で大量の住宅が再建され、ハードの部分ではそれなりの復興を遂げた。しかし、多くの被災者が「再建に時間がかかり過ぎた」と感じ、こころやコミュニティーの問題、経済や暮らしの復興は大きく立ち遅れている。
一方で、復興の成果としては、災害情報や人材の育成、コミュニティにおける防災組織など、防災のための社会システムの充実がはかられた。また、互いに助け合う市民のネットワークが生まれ、コレクティブハウジング(協同居住型集合住宅)などの新しい住まい方など、安心のための社会システムの芽が生れた。
震災で見えた課題は、
①応急対応とともに予防に取り組み安全な都市環境を作り出すこと、
②再建支援制度や復興マニュアルなど復興を迅速にするシステムを作り出すこと、
③経済優先から安全優先への転換をはかり、共生と協働の市民参画社会を作り出すこと、つまり、「安全」という視点での新しい市民社会をどう築くかである。
これらのためには、市民、行政、企業などの立場を超えた連携が欠かせない。研究者には、専門分野を超えた連携が必要だ。そして国境を超えた連携をどう生み出すか。災害後ではなく、起きる前に世界の人々がどう支えあうのか。それを考えておくべきだろう。
二十世紀の最後は「国際防災の十年」だったが、二十一世紀の最初は「災害予防の十年」にする必要がある。これまでの取り組みで国際協力の必要性は認識された。今世紀は、それをいかに実現するかが問われている。