戻る


火災時の人間行動


デイヴィド・カンター(環境心理学、リバプール大学心理学教授)の講演より

「ここに、ロンドンで起こった地下鉄駅構内の火災事例を示します。地下鉄のエスカレーターのなかほどで火事が起きました。このとき、警察官は火事が上方に向かって広がっていくことを理解出来ず、上方に避難するように指示し、30人の死者が出ることになりました。火災後、近くにいた人たちの記憶により、この30人の行動経路(どのように逃げたか)を調査しました。その結果、実際に彼らが日常生活で使っている行動パターンは、非常事態でも継続していたということです。これは、非常に大きな設計上の含蓄を含んでいます。例えば、非常事態のときだけに使われる非常行動のサインは、とても問題があると思われます。デザインは、人々の行動の期待、それから行動様式というものを考慮に入れる必要があるのです。私はこの研究から、工場や会社での事故に対する安全性の問題についても発展させていきました。場所の概念や場所の理論は、緊急事態において状況を理解するときのよき手助けとなっています。
 ある場所で事故が起きるかもしれないという予測は、その場所で実際に事故が起きることに直接関係してきます。単純な物理的なデザインを変えることによって、事故をなくすことは出来ません。心理的な活動状況や精神的なもの、その場所に附属している心理的な行動に注目することが大事なのです。」

記録・構成 小林美紀/デイヴィド・カンターが語る環境心理学の発展、日本建築学会空間研究小委員会 人間・環境学会合同研究会、2000年9月12日


ご案内:2010年度までのアーカイブHPを表示しています。2011年度以降のHPを表示する▶